「夕陽」「滝壺」「筆箱」

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 ついにあいつを追い詰めた。巨大な滝にかかるつり橋の上でおれとあいつは対峙した。下はどうどうと水が滝つぼに落ちている。逃げ道はないと悟ったあいつは獣の表情でおれをにらんだ。おれも負けずに睨み返す。復讐のときはきた。あいつは胸元からナイフを取り出すと、逆手にもって構えた。堂にいった構えだ。おれもゆっくりと胸元から取り出した。ナイフではない。筆箱だ。おれは筆箱をあいつに投げると遺書を書けと言った。あいつはいぶかしげな顔をしたが、やがてポケットからメモ帳を取り出し書きだした。おれはお前が死んだらそれをお前の娘に送ってやる、といった。あいつはメモ帳をおれに投げよこしふたたびナイフを逆手に構えたのでおれは拳銃であいつのひたいを撃ちぬいた。あいつの体は滝壺に落ち、見えなくなった。おれは慣れた所作で拳銃を人差し指を軸に一回転させ腰のホルスターに戻した。そしてつり橋をわたると夕陽のほうへ去った。
その他
公開:24/08/09 02:39

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