オイヌサマ

「あっ！見て、柴犬だ！かわいい～！」
僕の彼女は犬が大好きだ。昔家で飼っていたと話すがそれ以上に深い理由がある。
「私の実家ね、徳川綱吉公の時代からオイヌサマ信仰が続いているんだ…」
徳川綱吉と言えば生類憐みの令。そこから犬を神格化した文化がまだ残っているという。
そんな彼女の実家に今日、結婚の報告に来た。
緊張と不安が高まる中、集まった人達を見て呆然とする。
彼女の弟妹達か？２０人程の少年少女が僕らを出迎えた。対して大人は一人もいない。
どういうことだ？と不安に思っていると少女が彼女に話しかけた。
「お婆ちゃん。また若くなったね」
お婆ちゃん？と、首を傾げる僕に構わず彼女は「オイヌサマのおかげよ」と少女に笑いかける。
少年が僕に頭を下げる。「母を幸せにして下さいね」と。
僕は少年に少年と彼女の歳を聞いた。
「母は今年で百歳で、僕は八十歳です。老いぬ様のおかげで皆、見た目だけは若いんです」