渡し守

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ある時急に思い立って、私は一人、川にやってきた。
最寄り駅から歩いて小一時間。辺鄙な所なのに来ている人は多く、案外有名な川なのかもしれない。
泳いでいる家族連れ、河原を散歩する人。遠くに目をやると、石を積んで遊ぶ子どもの姿もある。
そんなのどかな雰囲気を切り裂くように、突然怒鳴り声が聞こえてきた。
「出ないってどういうことだよ」
行ってみると、どうやら渡し舟が欠航になっているらしい。皆乗る予定にしていたようで、顔を真っ赤にして不満を口にしている。
岸に繋がれた舟を見ているうちに、そうだ、私もこれに乗りに来たんだったと思い当たる。
しかし、渡し守は仏頂面で「欠航です」と繰り返すのみ。謝罪の言葉もない。
私も次第に腹が立って、その場を立ち去った。
気が付くと、病院のベッドの上。一命をとりとめた私は、渡し守の心遣いに感謝したのだった。
その他
公開:25/02/03 20:38

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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