悲しみを手放して

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冬は寒くて花が少ないから、傷ついた心が癒されるのに時間がかかるって、ママが言ってた。たぶんそれは本当。実際わたしは冬の入り口に失恋したのに、まだ引きずってる。
空に浮かぶまばらな雲も、氷の張った道も、傍らにわたしがいるのにちっともスピードを落としてくれない車も、ぜんぶ理不尽だし腹立たしい……そう思っていたら急に辺りが暗くなった。そして遥か高いところから女のひとの声が聞こえてきた。
「そこのかわいいお客様。冬の国を訪ねる覚悟はおありになるのかしら」
どうやら冬の国とやらへ連れて行かれそうになってるらしい。だけどそんなの逃げたみたいで困る。
「元の場所へ帰りたいです」
女のひとはわたしの不安をあおるかのように艶やかに笑う。
「帰れるわよ。あなたがその悲しみを手放せるのなら」
「……善処します」
気づいたら登下校に使っている道を歩いていた。わたしは丸くなっていた背筋を伸ばして前を向いた。
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公開:25/02/03 15:47
更新:25/02/03 15:50

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。
イラストはibisPaintを使っています。

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