旅に出る

2
4

「旅に出る」
そういうと彼女は泣いて縋った。
「ダメよ、私達は一緒にいなきゃ。あなたみたいに旅に出た人は、みんなダメになっちゃうの。お願い、そばにいて」
けれど、俺は諦め切れなかった。
深い谷の底、暗い洞窟、何もかもを見てみたかった。
だから、俺は泣いている彼女をそのままに旅に出た。



あれから何年経っただろう。
久しぶりに陽の光を浴びた気がする。
彼女は何処だ?

「ママー!無くした靴下片っぽ出てきたー!」
「え!?やだ、何でテレビの裏に…あ、でもこの靴下、この前の大掃除で捨てちゃったわね」

まるで、雷を打たれた気分だった。
ああ、どうして。彼女が「一緒にいなきゃ」と言っていた意味をようやく理解した。

「埃だらけだし、これも捨てなきゃね」

そして、俺は絶望した。
その他
公開:25/02/06 07:43

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容