英雄

　桃太郎は今日も村人主催のパーティーに呼ばれたらしい。「ちょっと友達が相談あるみたい」なんて言って出ていったけど、夕方鏡の前でこっそり髪の毛をセットしていたから知っている。しょうもない嘘なんかついてないでどうどうと出ていったらいいのに。
　きっと後ろめたいんだろう。鬼を退治して貰った褒美はそろそろ無くなるというのに、彼はいまだに定職についていない。『英雄』という肩書きだけの服を着て、今日もブラブラ遊び歩いている。
　ねえ、あなたを『英雄』って持ち上げてる人たちが、影であなたのことなんて言ってるか知ってる？『財布』だよ。
　
　しょうがないなあ。スマホをタップして電話をかける。

「あ、もしもし？アクター鬼ヶ島さん？ああうん、そう。いつもの『鬼退治コース』で。今年もよろしくお願いします」
　
　おじいさんとおばあさんの遺産もこれで無くなる。年一でやってきた鬼退治も今年で最後になりそうだ。