蛇口

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 真夜中、台所の蛇口から、ぽたぽたと水が垂れている。
 その物音に気付いた寝間着姿の女が、台所に入ってくる。
 女は蛇口を優しく撫でる。蛇口は少し震えている。
 女は台所の食器棚のひきだしから、水道局が社会科見学に来る子どもたち向けに作ったパンフレットを取り出し、蛇口の前に立つ。
 女はそのパンフレットを優しい声で読み始める。
 女は語る。川の話、海の話、雨の話、ダムの話、浄水場の話、そして水道管の話。
 女の語りに合わせて、だんだんと蛇口から垂れる水のスピードが遅くなっていく。
 そして女が、てんぷら油で汚れた水を綺麗にするために牛乳パック何本分の水が必要かを語り始めた時、蛇口の水が止まる。
 女は音を立てないように寝室に戻る。
 翌朝、女は朝食を作るためにその蛇口をひねる時、最初に出てきた水を使わないように注意する。
ファンタジー
公開:25/01/25 00:02

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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