螺鈿の小筥

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私は螺鈿の修復をしている。手元の二つの小筥は数百年前の物であろうか、かなり劣化しているが素晴らしい物だ。
丁寧に扱って残してきた昔の人の気持ちが不思議に伝わって来る。一つ目の筥を見ると蓋の端に小さな花弁模様の穴が空いたままとなっている。貝の一片がとれたのか、その跡に自分で貝を切って置くとピッタリと収まりそうだ。今日はここで作業を止めて明日仕上げよう。

私はその夜、夢を見た。
工房で二人の男が小筥を作っている。一人の男が立ち上がった時、誤って灯りを倒し火の手が上がり男はびっくりして逃げ出した。もう一人の男は二つの小筥を守り抱えて倒れていた。

暗闇から男の声が聞こえる、私は工房を焼いてしまった者です。私の作っている筥は兄弟子より優れていると自惚れていました。
穴に貝の一片を入れれば完成だったのですが、私への罰として貴方が穴を修復するのは止めて下さい。
翌朝私は貝の一片をうめる事を止めた。
ファンタジー
公開:25/01/24 22:52

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