隙間

　昼下がりの電車に乗っている時、目の前の席に座っていた若い女性が、あくびをした。
　大きく開けた口を手で隠した。
　何か違和感を覚えた。
　気づかれないようにそっと目をこらすと、女性が口を隠しているその手の指の隙間から、小さな目がこちらを見ていた。
　その目とばっちり視線が合った。
　女性は口を閉じ、手を膝の上に置いた。
　女性が俺をちらりと見た。その目はさっき見たあの目と似ていた。
　今のは何だったんだと思っている時、女性が再びあくびをした。
　女性は口を手で隠した。
　その手を見ると、やっぱり指の隙間に目があった。
　女性は明らかに、さっきよりも大きく指を広げていた。
　女性が口を閉じ、手を膝の上に置いた。女性が俺に笑いかけた。
　俺は慌てて腰を浮かした。
　女性がそれを制し、口を大きく開けた。女性はその口を手で隠さなかった。