小さい秋

「小さい秋を見つけた方には百万円」
　唐突に出された法案によって、日本国民は老いも若きも朝から晩まで虫取り網を携えて小さい秋を探すようになった。
　何しろ小さい秋は絶滅危惧種になってしまった。祖父母が子どもの頃にはそこら中にいたらしいが、今やほとんどいない。原因は夏が長くなってしまったせいだ。ようやく肌寒くなって「ああ秋」と思ったが否や急に冬が来る。
　もう小さい秋どころか秋すら無いんじゃないかな。そんなことを思いながら私は虫取り網を生垣目がけて振り下ろす。手ごたえあり。よく分からないけど多分これは小さい秋。さっそく鑑定人に鑑定してもらう。
「ダメだねこれは『残暑』だ」
　ちょっとおまけしてよ。ここのとこなんかしみててエモいでしょって言ったけど駄目だった。がっくり肩を落として私は残暑を生垣に逃がしてやった。
　空には見事な入道雲が広がっている。小さい秋はまだ見つかりそうにない。