被災地のゴースト

１月１７日５時４６分。
今年も黙とうを終え、外へと視線を向ける。あちこちにゴーストが佇んでいた。
外に出て、ゴーストに触れる。鋭い冷たさが全身を襲う。同時に３０年前の恐怖と後悔が脳内に流れ込んでくる。
ゴーストに伸ばした手を引っ込める。一瞬とはいえ、恐ろしい思いをした。荒い呼吸を落ち着ける。
ゴーストは私に一瞥もくれず、ただそこに佇んでいる。あと数時間もすればいなくなるそれに、沢山の人が触れていた。
ゴーストとは何か？実際それが何かよく分かっていない。
触れると災害時の記憶が流れ込んでくる事から、犠牲者の記憶の残滓ではないかと言われている。幽霊とも違うそれに、最初は皆戸惑った。
辛い記憶なら見ない方がいい。触れない方がいいという人も多い。
だけど私はゴーストに触れる。３０年。痛みを忘れるには十分な時が流れた。見た目には傷も残っていない。
だけど忘れてはいけない。だから私は痛みに触れるんだ。