いやしい

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 ある昼下がり、銀行のATMコーナーに入っていった中年女性客が、小さく悲鳴をあげる。
 銀行員が駆け付けると、ATMの周りを一つの人魂がふよふよと飛び回っている。
「ああ、びっくりした」
 女性は苦笑いして言う。
「ただ今追い出しますので少々お待ちください」
 銀行員はそう言って一旦引っ込み、小銭が詰まったガラス瓶を持ってATMコーナーに戻ってくる。そして床に何枚かの小銭をばら撒く。
 人魂が反応する。人魂は小銭に近づき、そのにおいを嗅ぐような動きを見せる。
 銀行員が小銭をばら撒きつつ、人魂を店の外へ誘導していく。そして入り口に差し掛かったところで、銀行員は外に向かって小銭を投げる。
 人魂はそれを追って消えていく。
「大変失礼いたしました」
 銀行員が女性に頭を下げる。
「いやしい魂ね」
「生前は社長だったんですけどねえ」
ホラー
公開:25/01/16 00:15
更新:25/01/16 00:16

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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