ピンクの森

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鬱蒼と茂ったブナの原生林の森に入って一時間も歩くと急に木々の幹が生々しく見えてくる。大木が巨人や怪物に化身するのはファンタジーにあるが、この森の木々は顔がなく四肢ばかり。身体の腕や脚がうねうねとする。そのうち樹が艶っぽく輝いて人肌そっくりに光る。但しその体験は、森に一人で来なくてはならない。複数人でやってきても森は何の変化も示さない。
佇む一人の周りに木々がさわさわと動く。いくつもの肢体が生々しく誘うように蠢く。それらは、見る者が男性であれば女性に見えて、女性であれば男性に見える。同性愛者ならば男女それぞれの同性の身体に見える。変化した木々は人の周りを踊るほどに楽しく迫って、人はただその迫力に圧倒され恍惚とさえなる。しかしほどほどに立ち去るべきとされている。いつまでもじっと見ていると木々はどんどん向かってきて、人は動けなくなる。日が暮れる。そうして一年のうち数人は森に行方不明となる。
その他
公開:25/01/11 16:54

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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