ほどける

初めて付き合った彼とは、たった一ヶ月で破局した。たくさんぶつかってさんざん泣いて、信じられないような罵詈雑言をお互いに投げ合って終わりにした。雑誌やSNSに載ってる『恋』という文字に関わるすべてを呪いたくなったし、振り回して振り回された自分に心底あきれた。
なのにいま、わたしの気持ちは揺れている。
「『やさしい』のは人として当たり前でしょ」なんてふつうなら恥ずかしくて言えないような言葉を、さらっとつぶやけるひとを前にして。
だからわたしは、嫌われるためにわざと言った。
「それって強要すること？」
彼は目を見張らせて、わたしから視線をそらす。
いっそのことここから立ち去って、わたしをひとりにしてほしい――そう願うのに、ふたたび振り向いた彼は、黙ったまま静かにほほえんだ。
その瞬間、かたくなだったわたしの心が、ほどけはじめてしまったと感じた。
本当にくやしいけど、たぶんもう止まらない。