カルテッド

下町で銭湯を営んでいると時々、ゲリラライブが開催される。
一仕事終えた大工達が汚れを落としにやってくる。その手には使い込まれた道具。
一仕事終えた板前が疲れを癒しにやってくる。その手には愛用の刃物。
大工と板前が目配せし合う。大工と板前が番頭の私を見つめる。やれやれ…どうやら今日、そのゲリラライブが行われるようだ。
大工がノコギリを取り出す。金槌と木材を確認する。
板前が包丁を取り出す。砥石を真剣に選ぶ。
その間、私はべこべこになったタライをセッティングする。さて…始めようか。
私がリードドラムとなり、タライを叩く。すると板前が刃物を研ぐ。キレのある音に身が引き締まる。
大工がノコギリを叩けばぼんやりとした音に雰囲気が和む。そこにキーボードよろしく木材を金槌で叩く音。
ロックバンドに憧れるものの、楽器が買えなかったおじさん４人衆。
冗談で始めた音楽だが、今や職人の魂がこもった音楽である。