掛け軸の女

我が家の和室には１枚の掛け軸が飾られてある。
私が子どもの頃、それはただの風景画で人物は描かれていなかった。
だが今、掛け軸には大勢の老人が描かれている。宴会でもしているのか、とても楽しそうだ。
この掛け軸を鑑定士に見てもらったところ、何の価値もない偽物だと言われた。私はこの鑑定士、見る目がないと思った。
この掛け軸は本物だ。というのも、私の祖母はこの掛け軸に描かれていた美女である。
その美女が若き日の祖父に惚れ、掛け軸から抜け出した。
祖母は祖父と共に歳を取り、祖父の寿命が残り僅かという頃、二人で掛け軸の中へと戻った。
私が二十歳の時、祖父母が消え、掛け軸に老いた男女が描かれた。
祖父母だけじゃない。両親や親戚も天寿を全うする直前で祖父母同様に消え、掛け軸に描かれている。
どうやら死期が迫ると掛け軸へとお呼ばれするようだ。
米寿の私。気のせいか最近、掛け軸から声が聞こえてくる気がします。