理想の彼女

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宅配ボックスを開けたら、一輪の赤いバラが入っていた。こんな気障なことをする人間はひとりしか知らない。真冬の屋外は冷えるけど、いまの感覚を言葉に乗せたくて、その場で電話をかけた。彼は一コールで通話に応じた。
「気づいてくれた?」
うれしそうな彼の声。本当に大好きだった。よろこんでほしくて、長い髪を短くしたり、センス皆無の料理の腕を磨こうとしたり、ゴツいアクセサリーを身につけたりした。だけど急に胸が苦しくなって気がついたのだ。無理して合わせていたことに。だからわたしから別れを切りだした。
「二度とこんなことしないで」
「どうして?」
「すぐ捨てられる花がかわいそうだから」
「おまえってそんなこと言う女だったかな?」
『おまえ』呼びは破局の一因なのに、本人は気づいていない。ダサい。彼だけじゃなく、伝えられなかったわたしも。
言い争って電話を切った。あたたかい家のなかで、少しだけ泣いた。
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公開:25/01/09 11:40

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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