ザユウノメイ

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「座右の銘とかある?」
 休日の昼下がり、ふたり並んでソファで寛ぎながら彼は言った。天気の話をするような何でもない感じだった。心の中で復唱する。ザユウノメイ。音だけだと植物や魚の名前みたいでちょっと可愛い。
「えーなんだろう?」
 軽く笑って応える。幼い頃のプロフ帳とか就活対策とか、その時々それっぽい言葉を選んだ気がする。だけど、いざ考えてみるとよくわからない。私は自分のことを意外と知らないのかも。そう思うと悔しいというか寂しいというか、少しだけ情けなく感じた。
「別になんだっていいんだ。ただなんとなく聞いてみただけだから。俺は……『先手必勝』にしようかな。明日には変わってるかもだけど」
「そんな適当でいいの? あとなんかズルイ」
 ふたりで顔を見合わせてクスリと笑った。いつもの日常の中、他愛もない会話だ。でも不思議と心に残った。彼が、私自身が、大切にしていることをもっと知りたいと思った。
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公開:25/01/05 03:13
更新:25/01/05 10:28

いぬさか

初心者ですがよろしくお願いします。
心に浮かんだシーンを気ままに描いていきたいです。

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