笑う門には

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とにかく冴えない正月だ。彼女に振られ、ボーナスで買った高級牛肉の到着が遅れ、干した布団が急な雨でお釈迦になった。しかしプラスに考えれば、これ以上の不幸はないということである。
俺は昼メシの調達がてら、駅まで散歩することにした。そこで妙な男と遭遇した。一見、普通の中年男だが、設置した長机の上で電池式の加湿器をたいている。意味がわからない。故に、俺は自らの運を試したくなった。
「なにしてるんスか?」
「福引きで一等賞の加湿器を当てたのでお披露目しています」
「めでたいですね」
「そうなんです。ですからこの水蒸気で一等賞のおすそわけをと思いまして」
「そりゃ是非にもあやかりたい」
俺はさっそく水蒸気を浴びた。冗談半分だったが笑いがこみ上げてきて、なんだか全部どうでもよくなった。
「おじさん、新年の初笑い、ありがとう」
「どういたしまして!」
俺は軽やかなステップを踏みながら牛丼屋に向かった。
その他
公開:25/01/03 20:32

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
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清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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