梅

マッチをすると、梅いちりん。
闇に紅さす灯りがぷくり、朧に揺れて花ひらく。

春告げマッチ。
小夜に零れた紅白の梅のイラストが美しいマッチ箱の中では、まだ灯り綻ぶ前のマッチ枝たちが蕾のままで眠っている。
暗い夜に一瞬の春を告げるその愛らしい花の火は、夏の線香花火にもよく似ているのかもしれない。

梅の灯ったマッチ一枝に、ふっと息を吹きかけてみる。散った火花は白煙となり、夜空へくゆりと枝を伸ばして、ポツンポツンと白梅が咲く。冷たい夜風に混ざる甘酸っぱい春風の香りは、いつもあの日の帰り道を私に思い出させる。

マッチをすると、梅いちりん。
闇に紅さす灯花の中に、並んで歩く二人の背中。

マッチをすると、梅香る。
春はここにと、ただ香る。