命拾い

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俺の犬は取ってこいが大好きで、それが高じて、俺が放ったものをとにかく拾ってきてしまう。
丸めて投げ捨てた督促状も、脱ぎ捨てた靴下も、嬉しげに取ってくる。
プライドやこだわりも、もう何度捨てたかわからないが、犬は懲りずに拾ってくる。むかし宣った捨て台詞を拾ってきたときは、顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「絶対に見返してやる」なんて今思い返せば阿呆の台詞だ。

不摂生が祟って寝込んだとき、犬はとんでもないものを拾ってきた。
元カノだ。
捨てられたのは俺じゃなかったらしい。
元カノはうどんを作ってくれた。既に結婚していて子どもが二人。今はパートのオバサンをしているという。
俺はジーンズを履いた元カノの、高い位置にある尻を盗み見ていた。オバサン? 歳を喰ったのは俺だけだ。
「コウ君、気楽にやりなよ?」
命だって数回捨てた。その都度犬が拾ってきては俺は生き延びている。
「そうだな」
「そうだよ」
公開:25/01/05 17:25

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