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 年末の夜、田舎駅の駐車場。暖房のきいたクルマの中、私は漫然とスマホを眺めていた。電車の音だ。やっと着いたか。顔を上げると、普段は侘しいこの駅も今日は少し活気づいて見えた。私と同じく帰省する家族を待っているのだろうか。

「お迎えありがとう。助かるよ、父さん」
 息子はそう言って助手席に座った。
「ああ……。お前こそ長旅ご苦労。どうだ、元気にやっているか?」
 少し戸惑いつつ、私は応じた。この春に大学へ送り出して以来、面と向かって話すのは初めてだ。語りたいことが沢山あった気がするのに、出てきたのは月並みな言葉だけだった。

 妻と息子はそれなりの頻度でビデオ通話をしていたようだが、私は偶々映り込んだときに一言二言話す程度だった。今思えば息子が家を出る前も同じようなものだったか? 私はよい父親をやれているのだろうか? 新たな環境での経験を楽しそうに語る息子を見ながら、生涯勉強だなと内省した。
青春
公開:25/01/05 12:02
更新:25/01/05 20:28

いぬさか

初心者ですがよろしくお願いします。
心に浮かんだシーンを気ままに描いていきたいです。

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