ぬいと人形

「このぬいにはね、元彼が詰まっているの」
手作りのぬいぐるみを手に彼女が微笑む。
ぬいぐるみは持ってみるとやけにずっしりしていた。中に砂を詰めたとしても、この重さは出ないだろう。
それに少し腐臭がする。縫い目には黒い糸…髪の毛かな？
気になるけど、彼女から元彼の話なんて聞きたくない。だから深くは聞かなかった。

その彼女が浮気をした。
僕には「浮気したら、ぬいに詰めるよ」と脅しておきながらそれはそれはないだろう…
だから僕は彼女を人形に詰めた。するとね、奇跡が起こったんだ。
人形の黒髪は茶髪に。目鼻立ちはくっきりと、丸っこかった手足が細くしなやかなものへと変化する。
人形の細部にまで彼女の魂が宿った証拠だ。かなり体の相性がいいらしい。
この様子だと歩き出す日も近いかもしれない。そうなる前にケースに閉じ込めておこう。
彼女が人間だった時からこうしておけば良かったと僕は今、少し後悔している。