刺し身が飼えた

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今日、刺し身を拾った。
「コラッ! 元の場所へ返してきなさい!」
「ちゃんとお世話するから! ほらかわいそうに、ぷるぷる震えて怯えてる!」
「ダメよ家が生臭くなるじゃない!」
確かに。
生臭い家での一日を想像する。
スラムで過ごす気分をほんの少し味わえそうだ。

「んみゃ」
思案していると、一鳴きした家猫が、巨大な舌で私の持っていた刺し身を掻っ攫った。

「これが漁夫の利ってやつ?」
「違うわ」
刺し身には悪いけれど、家猫が満足そうで良かった。

きっと刺し身は、家猫の体となって、私の家で生きていく。
思わぬ形で願いが叶った。死んでも生きられるのだ。いいね。あれ、私変なこと言ってるな。

視線を感じて顔を上げる。家猫の黒い目が、死なないならあなたを食べていいかと聞いて来ている気がした。

やっぱり刺し身は飼うもんじゃなかった。食べ物なんて生き物じゃない。
だから見逃しておくれ、愛しい猫。
ファンタジー
公開:24/12/28 22:27

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