書締めと書初めと消初め

ウチには書締めと書初めと消初めという、大晦日と元旦に行う変わった風習がある。
まず書締めだが、これは今年いっぱいでやめたい事を紙に書く。父は昔、書締めで『タバコ』と書いてタバコをやめた。
その代わり、書初めで『珈琲』と書いた。
書締めとセットであれば、書初めは意味を変える。
この場合の書初めは書締めで終わらせてしまったものの代わりに始めたい事を書く。
失ったものの代替行為だ。父はタバコをやめた代わりに珈琲を趣味にした。
残った消初めも、書締めとセットで用いられるものだ。
私は大晦日の書締めで元彼の名前を書いた。まだ好きな彼の名前。
翌１月１日。元旦。私は昨日書締めで書いた彼の名前を墨で真っ黒に塗り潰していく。
消初め。忘れたい記憶を、塗り潰す事で新たなスタートを切る儀式。おかげで未練はなくなった。
書締めと消し初めを使えば、去年１月１日の悲劇も忘れられる。
だけど私を含め、誰もそうしない。