母、来たる

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私の母は突然やってくる。
しかも決まって掃除をしている時に現れて、あれこれ口をはさんでくるのだ。
「玄関は四角く掃く。まだ隅にごみが残ってるでしょ」
「わかってる」
「扉の上にほこり」
「知ってる」
「梁にヒビ」
「えっ!?」
母は私と目が合うと、にやりと笑って消えてしまった。
亡くなって一年経つのだからそろそろ心配するのもやめたらいいのに、本人はまだ心残りがあるようだ。
私は玄関を四角く掃いて、扉の上部を丁寧に拭いた。
今年の大みそかは母のせいで一日中掃除をして終わったけど、来年はどうだろう。さらにその先は?
心のなかに生きている母も、いつかすっかり薄れてあとかたなく消えてしまうのかもしれない。
だから私は。
母と同い年になる時が来ても、どこか一カ所だけ、部屋を散らかしておこうと思う。
その他
公開:24/12/31 22:12

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
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清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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