撞き納めの鐘の音

ーゴーン
「この音は、裏の森下さんのご主人じゃな」
ーゴーン
「これは二丁目の島田さんのお婆さん」
ーゴーン
「これは杉村さんの健太君か。中学生になって、音の響きもしっかりしてきた」
ーゴーン
「これは……」

　この寺では、毎年地域の人たちが集まり、みんなで除夜の鐘を撞くのが恒例になっている。百歳になる住職は、もう寝たきりになっているが、長年の経験から、誰が鐘を撞いているか音を聴くだけで分かるという。

「みなさん撞き終わりましたよ。最後に」
　やせ細った体を抱えられ、僧房から出た老住職は鐘の前に歩み寄る。

（これが本当の撞き納めになるかもしれんな）
　そう思いながら、この世に残した煩悩を振り払うように最後のひと撞き。
　ひときわ厳かに鐘の音が響きわたる。

ーゴーン
（みなさんよいお年を）