悪口買い取ります

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『悪口買い取ります』という立て看板に興味をひかれ、街角にあった店ののれんをくぐった。
四畳半ほどの空間に小さな机があり、紫色の壺が置かれている。傍らには『壺の蓋を開けて売りたい悪口をつぶやいてください』と書いたメモが貼り付けられていた。
悪口ならたんまり言える。なぜならおれは、陰で『お怒り男爵』という不名誉なあだ名をつけられた最恐課長なのだ。
おれは蓋を開け、思いつく限りのありとあらゆる罵詈雑言を叫び立てた。すると奥の小さな戸が急に開き、千円札の乗ったトレイをさしだされた。
「なんだ、全然大した金額にならんな」
おれは捨て台詞を吐いて店を後にしたが、次はもっとひどい悪口を言ってやろうと、翌日ふたたび店を訪ねた。
しかしいざ壺を目の前にしたら、まったく悪口が浮かばない。どうやらすっかり毒気を抜かれたらしい。金にはならないが、心は軽かった。おれはスキップしながら家に帰った。
ファンタジー
公開:24/12/22 16:54

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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