王子不在

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五歳児クラスの出欠席表は、☓マークで埋め尽くされている。最年長の松崎先生は、絶望の声色で園長先生に問いかけた。
「王子役全員、インフルで欠席です。どうしましょうか……」
今日は待ちに待ったクリスマス会。園長先生オリジナル脚本『王子とネズミ』をこどもたちに演じてもらうことになっている。とある城のわがまま王子が森でやさしいネズミたちと出会い、心を入れ替えるという物語である。ところが役柄の配役で大いにもめて、五歳児クラス全員が王子役になってしまった。元をたどればそれが運のツキだったのかもしれない。
「ほかのクラスの子はみんなネズミさんですものね。こうなったら私が王子役をするしか方法が……」と、松崎先生は予備の毛布をマント代わりに羽織ったけど、急ごしらえの衣装では劇が台無しになりそうな気配が漂う。
結局、演題を『ネズミさんたちのおしゃべり会』に変えることでピンチを乗り切った。意外と好評だった。
その他
公開:24/12/21 19:44

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
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清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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