最後の日

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大学をでてしばらく放浪していたおれをひろってくれた社長には感謝している。
大手に会社を買収され理不尽な扱いも受けたが、同僚に恵まれた。おおむね快適に過ごすことができた三十年だった。
きょうおれは定年退職する。最後の出勤日くらい小ぎれいにしようと、カリスマ美容師を家に呼び、髪を整えた。スーツも新調した。靴はあえて履き慣れた古い革靴を選んだが、自分なりに丁寧に磨いたつもりだ。
しかしいざ会社の事務所に来てみれば、まるで泥棒に入られたかのような荒れようである。しかもおれ以外の社員はひとりもいない。さてはサプライズパーティをひらくつもりかとしばらく待ってみたが、夕方になっても、誰も戸口に現れなかった。
おれは絶望しながら外にでた。よりによって、なぜきょうなのだろうと頭上を見上げる。まもなく衝突する予定の惑星は、目の前まで迫っていた。
ファンタジー
公開:24/12/19 11:38

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
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清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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