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新月の夜、願いごとを書いた紙を船の形に折り、空に飛ばした。船は勢いよく夜空の海に出航し、やがてそろそろと星のあいだをすすんでいった。
月はさやかに輝き、たどり着いた船をまんべんなく受け入れている。そのなかに、わたしとわかれた夫の船をみつけた。お互いのしあわせを祈ろうと、約束して送りだした船。ほかの船と見分けがつかないだろうと思っていたのに気づいてしまった。
いろどりをうしなっていた日常はくるしくて、とてもいっしょに歩くことはできないと感じた。わかれを決めたときは、自分の時間を取り戻せることによろこびあふれていた。
二度と会わないつもりでいる。その覚悟が揺らいでしまう前にと、わたしは月に背中を向けた。つぎに月が満ちるときは、前を向いて歩いていると信じたい。いまはまだ迷いのなかにいたとしても。
ファンタジー
公開:24/12/19 07:46

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
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清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

イラストはibisPaintを使っています。

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