トンネルをぬけたら

トンネルをぬけたら雪国に入るつもりでタイヤをスタッドレスに履き替えてきた。ところがトンネルを抜けて現れたのはハワイのような常夏の海岸だった。驚いて車を停め海岸に降りると熱気で目眩がした。引き返そうとUターンしてもなぜかトンネルは見当たらず、海岸に戻ってしまう。

親切な土産物店の店主が泊めてくれ、成り行きでそこで働くことになった。やがて店主の妹と所帯を持った。満員電車もノルマもないここののんびりした生活が性に合った。　

ぼんやり思い出すのは、初詣で「今年中にストレスから解放されたい」と絵馬に書いたことだ。トンネルを抜けたのは12月29日だったから願い事は叶った。

だが、トンネルを抜けて一体どこへ行こうとしていたのか。それが思い出せない。わざわざスタッドレスタイヤを買ってまで行こうとしていた。何か大事なことを忘れた気がする。が、思い出さぬ方が幸せなのでは、と最近は思い出すことが怖い。