必殺パンチ

俺は今、拍子抜けしている。きっと観客も同じだろう。
ボクシング界期待の星の噂は、所詮噂でしかなかったようだ。
繰り出してくるのは単調なジャブばかり。牽制ばかりであくびが出る。
つまらない試合だ。拳筋も読み切ったし、とっとと終わらせてしまおう。
一歩大きく踏み込む。瞬間、俺の顎に相手のストレートがクリーンヒットしていた。
完全に意識の外からの一撃。その衝撃に脳が揺れる。体がリングに吸い込まれる。

今日の対戦相手も僕の事を研究してくれていたようだ。それが仇となったとは思うまい…
僕のジャブは、ジャブはジャブでもデジャブ。相手に未来の可能性を見えるジャブだ。
それを何度も打ち込む事で、相手に偽りの拳筋を刷り込ませる。
あとはここぞというタイミングでストレートをお見舞いしてやればいいだけだ。
皆、僕の必殺パンチはこのストレートだと思っている。
何度も皆にデジャブを見せつけ、そう思い込ませている。