ホッアイロ

年末。公共工事の多いこの時期、交通誘導員はいつでも苦情の捌け口となる。
突っ立っているだけの楽な仕事？勘違いも甚だしい。嫌味に心も殺伐としてくる。
そんな私に先輩がホッカイロをくれた。ありがたい。冬の必需品だ。
「それ、カイロじゃなくてアイロニカルのアイロな。この仕事やっていると理不尽な怒りに晒されやすいだろう？そんな時は『あの人は今朝、犬のうんこ踏んだに違いない』とか、相手の怒りを皮肉で受け流すようにするといい。そうすると気持ちは落ち着くし、アイロはこれくらい温かくなる」
先輩のアイロを触らせてもらう。まるでホットの缶コーヒーみたく熱かった。
「ちなみに相手の怒りを冷笑で受け流すと、アイロは冷たくなるから夏も使えて便利だぞ」
先輩にお礼を言う。いけ好かないチャラ男かと思っていたが、意外と気が利く人だ。
「そりゃどーも」と肩をすくめる先輩。あちちっ！と言って、アイロを取り落しそうになった。