赤いポスト

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まだ人が住んでいない森に入ると、そこかしこに生き物の気配が感じられた。彼らはそう遠くない場所でじっとこちらをうかがっている。きっとどんな人間なのか観察しているのだろう。わたしは素知らぬふりをして、斧をふりかざし、森を切り拓きはじめた。想定より時間はかかりそうだけれど、どうせ急いでいないからと、のんびり小屋づくりを進める。
一カ月ほど通うと、ひとりで住むには十分な建物になった。これで家出の準備は整った。あとは身一つでここへやってくればいい。
満月のうつくしい夜、小屋を訪れると、なんとはなしに赤いポストを出入口に設置した。どうせ手紙など届かない、お飾りのポストである。ところがあくる朝、目覚めてなかをのぞいたらたくさんの木の実が入っていた。わたしは生き物たちに受け入れてもらえたのだろうか――そう思うと、もう少しだけ長生きするのも悪くない気がした。わたしはその足で家に帰った。
その他
公開:24/12/12 21:54

いちいおと( japan )

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イラストはibisPaintを使っています。

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