町の映画館

小さな町には映画館がひとつだけある。上映は日曜日。朝六時から夕方六時まで連続で上映するのは町の光景。前週の商店街や住人である。人口八百人の町民たちの生活する姿が断片的にコラージュ風に淡々と映されて、ストーリーはなく音楽もない。誰が撮影、編集したのか明らかにされない。商店街や公園や至るところにある監視カメラの映像かと想像されたが、家庭内まで映るので誰かが秘密裏に撮っているらしい。そのうち誰も気にしなくなった。
家庭のシーンは特に多い。子供の遊ぶシーン、家族団欒シーンや入浴シーンときには夫婦のベッドシーンまで。もちろん、子供も観るので過激なシーンはカットされている。
住人たちは毎日曜日、三々五々集って、町外れの映画館に通う。延々と上映されるスクリーンに一週間の自分や自分の家族が映っているのを観て、あるいは全然映っていなくても、何だかほっとして映画館を出ると、翌日はもう月曜日である。