陽投げ網(ひなげあみ)

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息を潜め、狙いを定める。
蠢く影は俺の存在に全く気づいてない。
陽投げ網を握る手に力が入る。深い森へ糸のように垂れた木漏れ日を編んで作った俺の相棒さ。

風が止んだ。
動きの鈍くなった木々の影めがけ、陽投げ網を打つ!
朝日のようにサァーっと差し込んだ陽投げ網から影は逃れようとしたが、最後には「ぎゃっ」という声とともに光へ飲まれた。
回収した網から影を掴みあげる。じたばたと抵抗する影。カッと睨み、俺は影からどす黒い部分だけを切り取った。
途端に落ち着きを取り戻した影を青空へ放つ。影は黒蝶となり、自分の棲み処まで舞うと墨汁みたいにポトンと元の影に戻った。

手の中に残るどす黒い影を見る。これは返さない。これは誰かの涙と一緒に零れ落ちた心の影だから、戻すとさっきのようにまた暴れる。

俺は陽だまりで影を焼いて食べた。
カラッと陽で焼いても、誰かの哀しみはいつだって味付けの必要がないくらい塩辛い。
ファンタジー
公開:24/12/12 09:00
更新:24/12/12 11:50

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

読んでくれてありがとう!

 

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