母の甲子園

伯父の影響で始めた野球。母は本気で甲子園を目指していた。

怪物投手が助っ人外国人をねじ伏せる姿に憧れ、華麗な変化球を操る女性投手の漫画に心を躍らせた。

「女が野球なんて」という声の中、母は負けなかった。
母が泥まみれでプレーする白黒の姿がアルバムに残っている。
けれど、熱意と努力だけではどうにもならないことが多すぎたのだ。

今日も暑い。母は先日から小康状態が続いている。
病院に向かう前、私は母のアルバムをそっと撫でた。
「私の全盛期の剛速球、あなたに見せてあげたかったわ」
母が胸を張る姿が目に浮かび、思わず微笑んでしまった。

病室で、許可をもらって持ち込んだラジオのスイッチを入れる。
球場の歓声と球児たちの熱戦を母に届けるのが、母のマネージャーである私の役目だ。

今年も熱戦の夏がやってきた。
そして、母は、今、どこよりも熱い試合に挑んでいる。

ファイト！！お母さん！！