運ばれていく

ある日の夕暮れ時、赤信号で停車していたら、対向車線から右折して行く軽トラの荷台に大きな観音様が乗せられて行った。珍しいと思っていたらその２台後ろから、今度はマリア像を乗せた軽トラが行った。次の信号でもまた赤で先頭で停車していたら、荷台いっぱいにヤギが乗せられた軽トラが右折していく。どこへ行くのかヤギは大人しく乗っていた。珍しい軽トラばかり通る。まだ何か通るのかと見ていると信号が変わって動き出した。

そのとき目を疑った。反対車線の軽トラに裸の人間が積まれている。「え？」と思ったがマネキンだった。いや、一瞬マネキンに見えたがあれは生身の人間だった。人間が運ばれていく。生きているのか、死んでいるのか、わからない。奇妙なのは、それを見ていたはずの通行人が誰一人驚くことも騒ぐこともなく、平然としていることだった。いったい何が起こったのか。あの軽トラはどこへ向かったのか。この国はどうなっているのか。