髪を描く

「ご予約ありがとうございます、マグローヌ様。本日はいかがいたしましょうか？」

「そうね…尾びれまで伸ばして頂ける？」

まだらになった毛先を胸びれでパタパタといじりながら、ショートカットの鮪が言った。
ここは海洋美容室・バーバーオクトパス。カリスマ美容師であるタコたちが墨を吐き、八本の足を使って水墨画のように魚たちの頭に髪を伸ばす。墨のカラーバリエーションも豊富で、どんなヘアスタイルでもお手のもの。今、海のトレンドは人魚のような長い艶髪で、ロン毛の鯵や鯖がそこら中を泳ぎまわっている。しかし、そこは墨。長い間波にもまれていると繊細な毛先の方から溶けて髪が短くなってしまうから、ショートカットになると魚たちはこの美容室を訪れた。

鏡の前に座ったマグローヌの髪に、カリスマ美容師HACHIが金色の墨を吐く。それから八本足で素早くショートカットをなぞると、輝くブロンドがゆらりと海中に伸びた。