加速するあなた

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混雑するフードコートを見回していると、席を確保した夫が手を挙げていた。
私はぎこちなく笑みを返した。

夫の行動は早い。歩くのも仕事もとにかく早い。スピード出世も果たした。
この頼もしい人に一生ついていこう、そう思っていた。

ところが先を行く夫のペースに私は遅れ始めた。テレビで笑うタイミングがズレるとか、初めは気にならなかった時差も、今は18秒違った。さっき観た映画でも、夫の方が少し早く泣いていた。
生き急ぐ夫は、いつか私を置いて行ってしまうのではないか。
私が不安を打ち明けようとしたとき、夫は驚きの表情を浮かべ、先に言った。
「そうか。この為か」
夫は人目も憚らず私を抱きしめた。そのまま私を抱き上げるとテーブルを離れた。
18秒後、ガラスを突き破り、車がフードコートに突っ込んできた。私たちがいたテーブルはぐしゃぐしゃになった。

夫は私の無事を確認すると満足そうに微笑んで目を閉じた。
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公開:24/11/18 18:40

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