体重が増えてしまった話

大家さんに「隣の部屋、入居者が決まったよ」と告げられる。
引っ越してきたのは冴えない男だった。
何の特徴もない男だけど、料理が得意だった。私が仕事から帰ってくるといつも隣の部屋からはいい香りが漂ってくる。
これなら騒音の方がまだマシだ。漏れ出る音には苦情を言えても、美味そうな匂いには苦情を言えない。
とはいえ我慢にも限界がある。私は恥を忍んで、料理を分けてもらった。
その料理は滅茶苦茶美味かった。私はその１食で胃袋を掴まれた。
以来、私は男に頼んで食事を作ってもらう事にした。
毎日通って、美味いものをたらふく食わせてもらっているんだ。
２年経つ頃には独り身で身軽だった私の身体は、二つの意味で身重になっていた。