人魚奇譚

2
3

 その肉を決して口にしないという条件付きで、伯母の遺品である人魚を譲り受けた。
 彼は透き通るように美しい、手の平サイズの男の子の人魚。その澄んだ黒目勝ちの瞳と一度でも視線が合えば、聖女だって恋に落ちてしまうような――
 私は寝食を忘れて彼の世話に没頭した。狂気じみた熱情に駆り立てられるがまま、己の全身全霊を彼へと捧げて――にもかかわらず、ある朝水槽を覗き込むと、水面に彼の死体が浮かんでいた。
 ――その後のことはよく覚えていない。気が付くと私の口から、鱗の色がどす黒く変色した尾鰭がでろりと零れていた。
 それから数年後、私は彼を喪った悲しみを忘れた頃に出会った男の人と結婚した。
 ある朝、台所に立っていると、突然下腹部を刺すような鋭い痛みに襲われた。担ぎ込まれた病院で、私は自覚の無いまま妊娠していたことが判明し、急遽出産の運びとなった。
 生まれた男の子は彼にそっくりの姿をしていた。
ホラー
公開:24/11/17 15:42

小石( 首都圏 )

純愛ものを書きたいと夢見るお年頃
週一くらいで投稿したいです

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容