手紙

今日で二十歳になる息子と俺の行きつけのバーにやって来た。
「ここはな、俺が母さんにプロポーズした場所なんだぞ」
その話に息子は顔を顰める。長女はこの話にえらく食いついてきたんだが、息子は興味なさそうだ。
今日、初めて酒を飲む息子に俺は良いものを振る舞う。
最初は安酒がいいなんて話もあるが、良い酒を飲めば良い酒の付き合い方も分かる。
それに今日の日の為に２０年、寝かしてある酒があるんだ。息子の生まれ年に出来たものだ。さ、封を切ってみろ。
息子は「どっちの？」なんて聞いてくる。
その酒には、２０年前の俺が二十歳の息子に宛てて書いた手紙を添えてある。
何を書いたか、俺も憶えちゃいない。時に流されたメッセージボトル。
それを酒の肴にするもよし。家に帰ってから読むもよし。
息子は手紙を脇に置いた。
「酒を飲んでから読ませてもらうよ」
手紙に涙してしまった場合、泣き上戸を言い訳にするつもりのようだ。