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 父はずっと禿げ頭を気にしていた。育毛剤を何種類も試し、クリニックにも通っていた。しかし父の頭に毛は生えなかった。

 ある日父が一枚のチラシを家族に見せ、
「これに応募しようと思う」
 と言った。
 それは、夜空で月の代役を務める人を募集するチラシだった。月が数か月旅行に行くので、その間夜空で月の代わりをするのだ。
「いいんじゃない?」
 と私たちは気軽に言った。
 父はその日から育毛剤をつけなくなった。クリニックにも通わなくなり、毎日禿げ頭をピカピカに磨くようになった。

 結果発表の日、なんと父の名が呼ばれた。
 父は実に嬉しそうだった。
 そしてあんなに気にしていた禿げ頭を堂々と光らせ、夜空で月の代役を見事に務めた。

「次は太陽かな」
 最終日の勤めを終え、帰宅した父は冗談めかしてそんなことを言った。

 後日、謝礼とともに兎が贈られ、我が家に家族が増えた。
ファンタジー
公開:24/11/03 01:31

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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