やなりん

4
4

いつからか覚えていないのだが、家鳴りがひどくなった。飼い猫のチャーチャもひどく警戒し、家鳴りのピークを迎える真夜中の二時頃には、ずっと天井を見つめて威嚇している。
「チャーチャ、もういいから……」
なだめて落ち着かせるけど、どこかでギシギシッと鳴るなり、これでもかと目を見開き、またうなりだすのだから困ってしまう。
寝不足気味の頭脳で考えたのは、家鳴りの気持ちを聞きだす必要があるということだ。場合によっては、交渉して妥協点を見出せるかもしれない。私はさっそく目に見えない彼宛てに手紙を書き、クローゼットの上に置いて出勤した。返事は優美な筆文字で書きつけてあった。
「『本能故、いかなる制御も我には不可能也。やなりん』――君、やなりんていうのか……」
名前を聞いたら、正体不明の何者かが急に親しみやすいキャラクターに変わった。チャーチャと私は、その日の夜からよく眠れるようになった。
ファンタジー
公開:24/11/02 14:17

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨
以前のアカウントにログインできなくなってしまい、つくりなおしました。

清流の国ぎふショートショート文芸賞 入選

ときどき短編〜長編も書いています(別名義もあります)

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容