ドはドーナツのド

2
2

孫はこないだもドーナツだったじゃないかと妻に文句を言っている。自分の叫び声に盛り上がり泣き始める。
そこで私の出番。ドーナツをいかにも旨そうに食べ始めると孫は泣き止む。ただ甘えたいだけなのだ。ドーナツが問題じゃない。

「また蒸しパン?」
私はばあさんに文句を言った。
「こないだ好きって言ってたじゃないか」
「同じものばっかりじゃ飽きちゃうよぉ!」
ばあさんは孫が喜ぶと繰り返す。
孫は飽きたとすぐ文句を言う。

出張先からの降雪渋滞で私はばあさんの最期に立ち会えなかった。ばあさんと私の物語は私が不幸者の孫の役を演じて幕を下ろした。

ほら美味しいだろう、とほっぺをつつくと孫はだまって頷く。子どもの涙はすぐに乾く。
妻は微笑み、ドはドーナツのド♪、と歌い始めた。
私は、鼻歌を歌いながら蒸し器の湯気を眺めるばあさんの姿を思い浮かべた。

ドーナツが問題じゃない。
公開:24/10/29 18:34
更新:24/10/29 18:35

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容