手紙

一通の手紙で夢が始まるのなら、同様に一通の手紙で夢が終わる。
姉がアイドルのオーディションに落ちた。
歌も踊りもビジュアルだってアイドル顔負けの姉。
しかし姉程度の人材は全国探せばいくらでも出てくる。
両親は姉ならアイドルになれるかもと思っていた。姉は自分ならアイドルになれると信じて疑わなかった。私はなるようにしかならないと考えていた。
姉はアイドルの道を諦めきれず、何度だってオーディションに参加する。そして不合格通知の手紙の山を築く。
姉の心は、もう折れる寸前だった。履歴書を送る手も自然と遅くなる。
私が姉の代わりに書類を書き、芸能事務所に送った。
だが私が送ったのはアイドル部門ではなく舞台俳優部門。
姉の表現能力は舞台の上の演技でこそ映える。
姉はアイドルにはなれなかった。でも、舞台俳優としてスポットライトを今浴びている。
一通の合格通知が、アイドルになるという姉の夢に終止符を打った。