オレンジタップ

爪先のカールした黒い靴がアスファルトを蹴ると、夜の街に金木犀が降ってきた。
甘く香るオレンジ色の花吹雪の中で、魔女の仮装をした大道芸人が観衆へ恭しくお辞儀をする。その表情は目深に被ったウィッチハットに隠れて見えない。

…パチン

枝のように細長い指を大道芸人が鳴らすと、道に積もった金木犀が溶け出してオレンジ色の水たまりへ変わり、お洒落な音楽が流れ出した。

タン、タタン！

大道芸人のタップダンスが始まる。情熱的な足捌きでオレンジ色の水たまりを蹴るとクラウンを描いて飛沫があがり、それはやがてカボチャのランタンへと変化して不気味な声をあげながら夜空へ昇っていく。幻想的で妖艶な美しさに、魔法をかけられたように誰もが目を離せない。

拍手喝采。

一曲踊り、大道芸人が再び恭しくお辞儀をする。
途端、夜空で嗤っていたカボチャのランタンたちが弾けて、オレンジ色の飴がトロリと糸を引いて降ってきた。