出発の音色

学校の七不思議という奴だろう。私が宿直をしている時に限って、誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえてくる。
恐怖より苛立ちが勝る。音楽室の扉を開くと、誰も座っていないのにピアノの鍵盤だけが勝手に動いていた。
私はピアノに近付くと椅子に座り、鍵盤に指を置く。そして、正しい譜面で音楽を奏でた。
この幽霊、ピアノをただ鳴らすだけで音楽の基礎がなっていない。
音楽教師としてそれは許せない。ピアノへの侮辱だ。だからこうして、正しい弾き方を教えてやっている。
徐々にピアノの腕前が上達する幽霊。厳しい私の指導にしっかりとついてきた。
そして子犬のワルツがしっかり弾けるようになった頃、私にも幽霊の姿がはっきり見えるようになっていた。
「先生。いつも練習に付き合って頂き、ありがとうございました」
演奏終了後、拍手を送る私に幽霊が頭を下げた。
もう満足したのだろう。その身体は光の泡となり、天国へと旅立った。